最近の投稿
伊坂幸太郎 / あるキング
伊坂さんの作品の中でも、この作品はかなり評価が分かれているらしい。
私の感想を一言でまとめると、伊坂さんの作品の中でも
「リアリティのある作品」だ
と思う。
……いや、多分、あるキング既読の人は、みんな「は?」となるかもしれない。
確かに、この作品にはシェークスピアの『マクベス』をモチーフにした非現実的な描写が多用されていて、なんだか釈然としないというか、読み進めにくい印象を持つ人も多いのかもしれない。
でも、魔女や魔物(の幻影?)の存在があろうとなかろうと、主人公は王としての道を歩むし、事故は起きるし、事件も起きるだろう。
そうではなくて、王となりえる力を持った人間が現代に産まれた時、どのような困難が待ち受けているのか、という筋書き自体に、圧倒的なリアリティがあるように思えるのだ。
逆にいえば、伊坂ファンでこの作品が苦手な人達は、この筋書きのどこかで「伊坂マジック」的何かが起きることを期待してしまったのかもしれない。
それがないから、リアリティのある作品だと、個人的には感じるのかもしれない。
ある意味でゴールデンスランバーにとても似た作品だと思う。
個人的にはこっちの方が好きかな。
最後の段落が、特に最後の一文が、その言葉遣いが、とても良い。
伊坂幸太郎 / オー!ファーザー
まず、まだ単行本化されていないこの新聞連載の切り抜きを、まとめて貸してくれた後輩に感謝。
伊坂ファンにとってかなりレア度が高いんじゃないでしょうか、この小説。
内容は、一言でいえば「お父さんが4人いる」高校生の話。
中盤以降、事件に巻き込まれていくわけですが、読みどころとしてはそれよりも、非常識な環境の中でそれなりにまっすぐに成長した主人公と、その周囲を取り巻くちょっと変わった友人達や父親達との関係、やり取りの面白さにあると思います。
ただ正直、私が個人的に伊坂さんの一番悪い癖だと思っている「主人公が、危機回避の行動をせず、ずるすると悪い方向に自ら流されていく」ような傾向のシーンが何回かあって、ちょっとストーリー的には興ざめに感じる部分もあったり。
しかし、連載小説という形態で、物語を展開させるのはすごく難しいだろうなぁと、読みながらも感じました。
一話一話区切りがあって、その中でちょっと考えさせられるセリフがあったり、展開を引っ張ったりという、こういう丁寧な仕事を大好きな作家で読めるのはなんて贅沢なことだろう。
もう完結して二年以上経ちますが、単行本にならないんでしょうかね。
映画「重力ピエロ」
せっかく仙台先行上映なのに、全国ロードショーが始まってしまうところでした。
というわけで、仙台市全面協力の「重力ピエロ」、観てきました。
伊坂幸太郎ファンとしては見逃すわけにはいきません。
さて感想ですが……。……。うーん。
やっぱ、話題づくりに走った時点で色々なものがほころび始めるんだろうな。
とりあえず、これまでの伊坂さん原作の映画の中では、個人的評価は断トツで最下位です(「陽気なギャング~」は観てないので比較から除きます)。
まぁ、原作を読んだ人だったら、「なるほど、映像にするとこういう風になるのね」という見方ができるので、ありかもしれない。
映画用に細部の設定が色々と変更されているけど、なるほど、良くできている。
でも、映画として、ひとつの作品として観た場合、どうだろうか。
最強の家族? 重力は消える?
この映画で、そのメッセージ伝わってますか? そう問わずにはいられない出来だ。
とりあえず、もともと原作に興味を持っていた人は、おとなしく原作を読んで欲しいなぁ、というのが正直なところ。
ちょっと前に公開されていた「フィッシュストーリー」なんかは、映画から観るのも全然ありなんだけどね。
以下愚痴。
伊坂幸太郎 / ラッシュライフ
- ラッシュライフ (新潮文庫)
- 著:伊坂 幸太郎
- 出版社:新潮社
- 発売日:2005/04
伊坂幸太郎の二作目。いろいろと『オーデュボンの祈り』とは異なるテイストを持っているのがある意味で凄いし、それでも「伊坂幸太郎っぽい空気」をそれぞれが共有しているのがまた凄い。そんな作品。
『ラッシュライフ』単体の評価をすれば、実は個人的にはあまり好きではない(あくまで伊坂作品の中では、の話)。
「ラッシュ」というカタカナに込められた複数の意味、場面転換のトリック、登場人物たちの意外な関係性……といった、枚挙にいとまのない巧妙なギミックは、確かにミステリー作家としての伊坂幸太郎の手腕の評価につながっているんだろう。
しかし、私は、伊坂幸太郎の魅力はそんな小手先の部分にあるわけではないと思っている。そういう意味では、この作品は伊坂作品をたくさん並べた中比べると、やや「作業的すぎる」作品に見えるのだ。
面白いが、心は震えないというか……。
というわけで、私にとって『ラッシュライフ』は、人には薦められるけど個人的にそれほど読み返すだけの魅力がない、という評価に落ち着いています。
もちろん、伊坂マジックを体感したい方は、読んで損はまったくしません。
以下、ネタばれあり
伊坂幸太郎 / オーデュボンの祈り
- オーデュボンの祈り (新潮文庫)
- 著:伊坂 幸太郎
- 出版社:新潮社
- 発売日:2003/11
このブログで最初に取り上げるならこの本だろう、と決めていました。
初めてこの本を読んだ時の衝撃とすがすがしい読後感は忘れられません。伊坂幸太郎のデビュー作にして、最高傑作候補です。
何故かミステリーというカテゴリ分けがされていますが、架空の土地・萩島で起こるめまぐるしい急展開の連続と人間模様を楽しむのが、この物語の正しい読み方だろうと思います。
おどろおどろしい内面描写とか、巧妙なトリックとか、私小説的リアルさ、といったものを小説に求める人には多分、肌が合わないでしょう。まして、安っぽいお涙頂戴的な感動もありません。
登場人物たちと一緒になって不安や緊張、何気ない幸せや充足感を共有できる人は、きっとこの物語を読んで何か心に残るものがあるはずです。

